浪漫飛行(1987年 米米CLUB)


(1)

ハンス・クリスチャン・アンデルセンの5番目の創作童話〝マッチ売りの少女″

あらすじは、こんな感じ?
時代背景は中世、北欧のお話。大晦日、街の片隅で少女がマッチを、売っていた。
マッチを売らなければ父親に叱られてしまう。
「マッチは要りませんか?マッチは要りませんか?」

年の瀬の慌ただしさも有ってか?全く売れないマッチ。やがて、日も暮れて、寒さも増してきた。
寒い。少女は少しでも暖まろうと、マッチに火を付ける。すると、どうだろう?
暖かいマッチの炎と共に、暖かい暖炉・素敵なご馳走などの幻影が1つ1つ現れて……炎が消えると同時に幻影も消えるという不思議な体験をする少女。マッチの炎が消えると、幻影が消えるコトを恐れた少女は持っていたマッチ、全てに火を付ける。

〜新しい年の朝〜
少女はマッチの燃えカスを抱えて微笑みながら
死んでいた。
おしまい。

ふざけんなー!
自分とは、全くもって合わないと思う!初めて売った訳じゃないだろう?商品は消費する?燃やしちゃったら、何も残らないだろう?しかも、自己憐憫?挙げ句の果てに死んでしまうだと?

理解できない。

アメリカ版では、少女は、実は死んでなくて。翌朝、お金持ちに拾われて幸せになる話、らしい。それも、どうかなぁ?ご都合主義じゃない?

いろんな人と、この話をしてきたけど、共感を得たコトが無いんだよなぁ〜。ふ〜んって感じだ。なーんか、僕の根幹なんだろうか?
好きに慣れない。この話は、何が言いたい?

(2)

「サンっ!」
新潟空港の到着ロビーから、懐かしい姿と共に声が聞こえる。

がっちりとした体型に、スーツを着こなした、この男は、僕の大学時代の同級生。〝豊田 広大(とよた ひろ)″。大学卒業後、地元、岐阜県で公務員となり現在に至る。
学生時代、もっとも同じ時間を過ごしたのでは、ないだろうか?周りからは、正反対の2人って云われたものだ!僕の大学時代の暴走?を止めてくれたり、一緒に行動したり。久しぶりの再会だ!

「久しぶり!ヒロ!」

「最後に会ったのが、引っ越しの手伝いだったから、4年ぶりか?」
4年の歳月は、友人を更に落ち着いた雰囲気に醸し出していた。

‘サン’は僕の〜あだ名〜。
陽太(ひなた)だからってコトで、大学のオリエンテーションの時に、たまたま隣だった、こいつに付けられた。

「車は、こっち!今日の予定は?」

「あぁ、今日は勉強会の打ち合わせっていうか?顔見せがあるくらいかな?悪いけどホテルまで送ってくれるか?」

新潟空港から、新潟駅前のホテルまで車で、30分くらい。僕の家から、それぞれ30分くらいの位置。

ヒロから連絡が有ったのは1ヶ月前。突然の連絡だった。

新潟に来る前は、愛知県に住んでいたコトも有り
割と連絡したり、合う関係だったが、新潟に来てからは、年賀状で近況を伝え合う関係だった。

突然の連絡の理由は?
①新潟で勉強会が在るので、行くよってコト。
②勉強会は土曜日なのだが、準備も在るので前日入りするコト。
③金曜日の夜は空いているか?ってコト。

相変わらず、用件だけを端的に伝えてきた。せっかく来るのだから、僕は新潟観光のガイドを申し出た。久々だったからね〜。

「この後、チェックインしたら、会場を下見したり用件を済ますのに、予定では2時間くらいって聞いている」
手帳を見ながらヒロは確認している。

「わざわざ、すまんな〜。仕事まで休ませて」

「ん?大丈夫だよ!ちょうど働きすぎだと思っていて、休もうかなぁって考えてた時期だったから」

「バイトは、まだしてるのか?」

「してるよ〜」

「だから、疲れやすいんじゃないのか?昼間の仕事に集中できる環境じゃないのか?」

「うーーん。昼間の仕事に不満は無いよ!新潟で元気で、やってる。まだ身体が動くうちはバイトもしたいんだよね〜」

「学生の頃と変わんないじゃないか!」

「あの頃とは目的が違うよ!そこまで、お金を必要としていない」

「俺が言いたいのは、心構えの話!昼間の仕事がバイトの影響で効率が下がれば、本末転倒だ!」

「そうだねーー。そうならないように心掛けているよ」
相変わらず、本当に正論だと思う。けど、ヒロに云われると別段、腹を立てない。気心の知れた関係なんだろう。

「ひろと君は、何歳になった?」
話題を自分の事から遠ざけたかった。

「4歳だ、今年から保育園に通ってる」

「もう保育園かぁ」

「産まれる前に、サンは出てったからなぁ」
ヒロは海岸線を眺めるように、呟いた。

「出てった訳じゃないよ!」

「新潟に目的が在るのか?」
ほんのチョットの沈黙。海岸線が、少し荒れているように感じた。

「悪い。送ってもらってるのに、久々だからな。いろいろと話したくてな、順番を間違えた」
少し、バツが悪そうに僕の方を見て、

「まぁ元気そうで何よりだ!」

「お互いにな!」

ホテルに車を預けて、ヒロは仕事へ。僕は久しぶりに新潟の街を散策することにした。

「仕事が終わったら連絡頂戴、それまで近くを散策してるから!」

「悪いな!終わったら直ぐに連絡するわ!」

「いいって!焦んなくても!」

スーツケースを車から降ろして、フロントまで見送ったら僕の時間。

(3)

新潟の街は久しぶりだ。

新潟駅から萬代橋へ、信濃川の河川敷を新潟西港へ向かう。大河、信濃川が穏やかに流れる理由も、最近知った。‘水の立体交差’の時に、光岡さんから信濃川の分水路の話も教えてもらったからだ。

洪水対策の1つで大河を分ける。新潟の先人の努力は、本当に凄い。当たり前だけど、水は高いところから低いところへ流れる。高低差の少ない下流域で、分水路を作るのは緻密な計算が必要。自然な流れプラス人工的に補助して流れを作る。
全ては海に注がれるが、方向を操作したのは人間の努力。

「子供の可能性を伸ばす仕事がしたい!」
光岡さんは、真っ直ぐな瞳を輝かせて夢を語ってくれた。夢を叶える為に仕事を退職。地元、新潟に帰郷して専門学校に通っている。夢の舞台は決まっているが、場所は迷っている。

余暇の時間に、選択肢の多い場所か?気心の知れた地元か?新潟の人は、上京する人が多いと聞く。華やかな街への憧れだろうか?実際、遊びの選択肢は多いだろう。

ライフスタイルを何処に持って行くか?自分の時間を、どう過ごすのか?

下流から連絡船が、ゆっくりと、のぼってゆく。
情緒ある光景を見ながら、
〜「新潟に目的が在るのか?」〜
ヒロの核心を突いた質問に、僕は答えを持ち合わせていなかった。

地元を離れたい気持ちも、分からなくもなく。地元の良さも分かる。じゃあ、両方とも受けてみて、結果を委ねる判断は光岡さんらしい。
結局、最後の判断は、自分。僕が、新潟を選んだように。

‘選んだ’?
〜‘逃げ’〜じゃなくて?

もう一人の僕が、心の隅っこから問い掛けたような気がした。

〜「新潟に目的が在るのか?」〜

(4)

「あと30分くらいで自由になる」
ヒロから連絡が入ったので、ホテルに向かう事にした。

新潟には、海の幸・山の幸が豊富に在る。なんてったって、米が美味い!ヒロと2人で、御飯なんて久しぶりだ。

「悪かったなぁ、待たせて!」
私服に着替えていたヒロは、御飯を食べる気が満々だ!馴染みの、飲み屋さんに連れて行き、後で‘おにぎり屋さん’に連れて行くプランを考えていた。

「お疲れ〜」× 2
ヒロは麦酒。僕は、車が有るのでウーロン茶。
元々、あんまり飲めない僕だから、ちょうどいい。

「連絡しておいたから、‘旅の栞’が在ると思ったわ!」
仕事を終えたヒロは、やっとプライベートモードに見えた。

「旅の栞(しおり)かぁ。昔、よく作ったなぁ」

「最近は、作ってないのか?」

「あんまり。まだ出掛けてないんだ!仕事とバイトの時間が多くてね」

「人生を楽しむ!ってコトを表現している、サンらしくないなぁ」

「もちろん?下調べはしているよ!鉱山跡とか温泉とか。旅の情報誌は毎年、買ってる!」

「らしいな〜」

空白の4年が無いくらい、話に華が咲いた。しかし、それは思い出話に、華が咲いたのだ。学生の頃とは違う。社会人で、家庭を持った大人が僕の目の前に居た。

「息子が大きくなったら、サンに鉱石採取とか連れてってもらおうかと思っていたんだがなぁ」

「小学生くらいになって、興味が在ったら、おいで!新潟県は海岸で翡翠拾いできるよ!」

「相変わらず詳しいな。子供は公園で小石を拾ってくるのが好きでなぁ。サンは未だに拾ってるし」

「鉱石採取!ちゃんと加工してフリマで売ってただろう?」

「毎回、赤字のフリマな!」

「売り上げは寄付って決めてたから、黒字は無いだろう?」

「自分達も楽しんで、社会貢献!サンのテーマだったからな。いちいち材料から採りに行くのは、サンのグループくらいさ!」

ヒロは、そうだ!と言わんばかりに、
「打ち上げの飲み会だってさ」

「伝説の天然水打ち上げ」× 2
2人の声が重なった。

「打ち上げのスケジュール・旅の栞まで作って。アルコールが入るから車の運転もダメだし、泊まるならキャンプにしよう!って、南アルプスの天然水で割って、呑むって言ってさ。信州の湧き水スポットで、キャンプ&打ち上げしたんだよなぁ。サンが居た時間は、最高だったよ!」

「新潟の湧き水スポットも、チェック済みだよ!」

「新潟の湧き水も美味いだろうなぁ」

「サンが新潟へ行くって聞いた時は、驚いたけど。相変わらずで、安心したというか」

「変わってないって、言いたいんだろう?ヒロは家庭を持って、ますます大人になったな!」

「そうでもないさ」
ボソッと呟いた。
さっきまでの声のトーンとは違って、注意しなければ聞こえない大きさだった。

「そういえば、アルビレックスレーシングチーム!」
話題を思い出話から、新しい話に切り替えたかった。

「アルビレックスレーシングチーム!懐かしいなぁ。そういえば、サンは鈴鹿サーキットまで来てるのか?」

「さすがに新潟から鈴鹿サーキット・富士スピードウェイは遠いから、宮城県のスポーツランドSUGOには応援に行ってる!」

「地方シリーズだっけか?サンに連れられて、よく観戦しに行ったなぁ」

「今年も面白そうだよ!スーパーFJは、富士スピードウェイとスポーツランドSUGOに参戦してるし、去年から全日本F3選手権にも参戦してるよ。」

「全日本F3選手権。そっかぁ、上のカテゴリーに来たかぁ」

「新潟での知名度は、相変わらず低いけどね」

「サンが新潟に来た目的の1つなんだろう?アルビレックスレーシングチーム!」

「そうかもね」

「その言い方だと、違うみたいだな?」
さすが、鋭い。

「アルビレックスレーシングチームの環境を良くしたい!モータースポーツを文化レベル?地域密着型レーシングチームにしたい!ってのは事実だよ」

「後付けの理由に過ぎないってコトか。いいんじゃない?それで!」

「誰だって、大人になるまでは住む場所なんて決められない!大人になって自分で環境は変えられる!
要は行動するか?しないか?」
残っていた麦酒を全て流し込んで、
「だろう?」
諭すように云われた。

まるで、別れた後の行動・考察を知っていたかのようだ。

「さぁ!サンのおススメ‘おにぎり屋’さん行こうか?」

やっぱり大人だよ! ヒロは……。

(5)

「うまーーい」
ヒロの顔は、とろけそうだ。

注文を受けてから、目の前で握ってくれる、‘おにぎり屋’。具材も新潟の海の幸・山の幸が盛り沢山、やっぱり外れはない。新潟の地酒も豊富な種類が在るので、酒呑みには聖地みたいな場所だ。

「サンが大学を辞めた時、俺は止めるべきだったのか?協力出来ることは無かったのか?未だに考えることがあるよ」

「そっか。あの時、選択は自分で決めたかったから助言は不要だったよ! 逆に何も云わなかったから助かった! 辞めた後も変わらない関係が嬉しかったよ」
お酒の勢いも有り、心の奥底で燻っていたモヤモヤを排出しているように感じた。
それは、今だから云えるのかな?新潟に移転して、コレだけでも良かったと思いながら聞いていた。

「サン!」

「ん?」

少し酔いが覚めたように、真顔で語り始めた。
「サンは、変わらずマッチ売りの少女が許せないか?」

「なんだよ⁉︎ いきなり⁉︎ 」

「サンの性格を端的に表していると思うんだ。マッチ売りの少女が、許せないってことが⁉︎ 」

「そうなの?」

「ココからは、俺の個人的見解なんだが、聞いてくれるか?」

ヒロは、やっぱりヒロだった。

(6)

「サンの言いたいコトも分かる!確かに生産性は皆無だし、工夫も無い。自己憐憫で逃げの様な話だ!だけど……」

だけど?

「少女には、選択肢が‘ソレ’しか残されていなかったんじゃないか?時代背景も中世のお話。確かに現代では違和感が在る。しかし設定の範囲内だったら少女の唯一の自由だったんじゃないか?」

「死を選ぶのが、最良の選択とは思えない!」

「それは、サンの性格!」

続けて、ヒロは語り出す。
「サンの様に、言いたいコトが言えて、好きな様に生きて、行動できるタイプには理解出来ないだろうって事さ!この話の一番許せないのは、サンはマッチ売りの少女だろう?」

「そうだよ、ヒロは違うのか?」

「俺が、この話で許せない人って云えば、街の人々と父親だ!共通して、少女を見殺しにしている事実さ!時代が中世だから、自分のコトで精一杯で他人に余裕の無い世界だったかも知れない。っていう事は、少女の選択肢として安らぎの死も在りなんじゃないか? 童話を、ここまで掘り下げるサンは、らしいと思うし、嫌いってゆうのも一定の理解もできる。でも、人って残酷。そうゆうテーマもアンデルセンは在ったんじゃないかな?」

「人って残酷」

「マズローの5段階欲求で云えば、満たされている階層が低い世界の童話。既に高次元のサンでは違い過ぎるって事さ」

「僕は高次元とは思わないけど?」

「悩みは?」

「無い!」

「だろうな!だから、サンなんだ!」

たたみかけるように、ヒロは続ける。
「別にサンを否定する訳じゃないんだ!俺の個人的意見さ!加えて少女の行動が最良とも思わない」

「やっぱ!ヒロだな! あくまで童話の話なのに、掘り下げに付き合ってくれるのがヒロさ!」

「自分の意見を持ってるだけさ。加えて言うが、サンの意見を否定するつもりもない!ただ俺の考えをサンに言ってみたかったんだ!」

「でも……なぁ……」
下腹部のモヤモヤは消えない。

「悩み!」

「ん?」

勝ち誇ったような笑顔で、
「悩み、出来たな!サン!」

その顔は間違いなく、学生の頃のヒロだった。

〜☆〜☆〜☆〜

余談&筆者つぶやき

浪漫飛行
作詞 米米CLUB
作曲 米米CLUB


実直で、改善・カイゼンなイメージの、豊田 広大(とよた ひろ)ヒロ。
学生気分の抜けない、チャレンジスピリット溢れる
イメージの、本田 陽太 (ほんだ ひなた)サン。

 

お話の基幹エピソードで重要なヒロは、いろんな事を私の頭の中で、喋ってくれました(笑)。ヒロとサンだけで、お話が出来そうなくらいです。
サンとヒロの関係は外部から見たら、正反対の二人に見えるかも知れませんが、実は類友だったり?お互いがお互いに尊敬し合う関係だと思っています。

上手く表現出来たか、分かりませんが、今後の二人の成長が核ですね〜。