(小説)マッチ売りの少女がNG‼︎【7】Hello!Orenge Sanshine

【7】Hello!Orenge Sanshine

Hello!Orenge Sanshine (1994年 JAM)

(1)

〜笹川流れを堪能して、自然に触れ合おう!〜
〜旅の栞(しおり)〜

雨天→鮭の博物館など村上市を堪能しましょう!

〜〜〜〜

「ハイ!当日の栞(しおり)ね、光岡さん!」
結局、作るのに時間が掛かって、渡せたのは一週間前。なかなかバイトが合わなくて、時間の擦り合わせが出来なかったのだ!それに加えて、調べる事も多かったね、光岡さんの個人情報。
苦手なコト、嫌いな食べ物。様々な情報を集めるのも時間が掛かった。誰かの為に、栞(しおり)を作るのは久しぶり!
免疫の無い光岡さんには、取り敢えずスタンダードな? 形にしておいた。光岡さんで不評ならば、鈴木さんに作る栞はもっと簡単にせねば。

「本格的ーー」
光岡さんは栞を手に取り、隅々まで読んでいる。
時折、笑みを浮かべてページをめくる。

「そうなの?栞(しおり)に免疫が無さそうだから、スタンダードな物だけど」

「マメさが、本田さんですよね」

用意するもの、タイムスケジュール、予定などを記載した簡単な物だけど、取り敢えず笑顔が見れたのでよしとしよう!

「じゃあ、当日は迎えに行くね」

「宜しくお願い致します!」

当日は、晴れたらいいな。

(2)

前日は、お互いバイトに入っていたので、朝9時に迎えに光岡さん家へ。

「本当に大丈夫?」
朝の時間は、何回も聞いてしまった。女の子は準備に時間が掛かるからって、思ったんだ。
もっと遅い時間を設定してたのだが、本人が大丈夫と言うので、割と早い時間。
光岡さん家に行くのは、いつぶりだろう?
去年のバイトの忘年会で、送っていった以来かな?

栞(しおり)より

8時 本田、起床。
9時 光岡さんを爽やかに迎えに行きます。

あの角を曲がれば、光岡さん家。
車の向きを変えて、バックで玄関前へ車を停める。
ハザードランプを点灯させて、連絡しようとしたら、車の音で気づいたのかな?
玄関から光岡さんが出てきた。

「おはようございます!」
茶色いリュックを持って、元気よく助手席へ乗り込む光岡さん。

今日は、メガネ姿。
ハーフパンツに、淡いベージュのシャツと同じ色の帽子。化粧は最低限の、日焼け止め程度。
普段見慣れない、メガネ女子は不意打ちだったね。

「本田さん!よろしく、お願いしまーす!」
そう言ってリュックを後部座席に置いて準備万端。

「よろしくね。光岡さんは、朝ごはん食べた?」

「食べましたよ。本田さんは?」

「僕は普段から、朝は食べないからね」

「そうなんですか?食べないと力が出ないですよ。非常食のメロンパン食べますか?」

「非常食って。大丈夫だよ、ありがとう」

新潟市から、新発田市方面に向かう。
日本海東北自動車道を山形県方面へ。村上市で降りたら、下道を再び山形県方面へ。道路の看板で笹川流れ行きと記載されている山間部を通り抜ければ。

栞(しおり)より
11時頃 笹川流れ到着。海を堪能しましょう!

「うーーみーー」
やっぱり言うと思った。
それでも、やっぱり言いたくなる。
そんな景色が広がる。

海岸線が、いわゆる笹川流れ。
険しい岩肌とエメラルドグリーンの海は、一部だけを切り取ったら新潟県とは思えない景色。
岩場と岩場の間の、僅かな砂浜が海水浴場。

「笹川流れって海水浴場、在るんだね。旅行雑誌には海水浴場なんて書いてなかったよ」

「本田さんは馴染みが無いから、観光名所なイメージなんですね。私のイメージは海水浴場ですよ」

旅行雑誌には海水浴場の情報は一切なかった。
それどころか?砂浜も在ることすら。

「そうなんだ。海水浴場だったら、水着が必要って書けば良かった」

「そうですね」
ちょっと苦笑気味な笑顔なので、多分、光岡さんは持って来ないだろうなぁ。期待して居ないけど、栞に書いておけば。
ちょっとだけ後悔。

新潟市方面へ、海岸線沿いに車を走らせる。
駅も通り過ぎて、どこまで、この景色が続くのだろう?

「そろそろ降りてみる?」

ちょうど、道路脇に停めてあった車が出発したので、そこに駐車。

目の前には、遠浅な海。エメラルドグリーンの海は、白波の荒れたイメージな日本海を覆す光景。

光岡さんは、降りると同時に海岸線へ一直線!
帽子を被り、サンダルに履き替える作業は手馴れたもの。階段を降りて砂浜に足を置くと、ちょっとだけ考えて、サンダルを階段の脇へ。

「冷たーーい!きれーーい!」
ちゃぷちゃぷと、膝上まで水が来るところまで向かっていった。

時折、吹く風に帽子を取られないように両手で塞ぐ姿は、とても無邪気に見えた。

「久々〜。うーーみー」
50メートルくらい離れても、響き渡る声。
やっと僕に対して、振り返る。

何が楽しいんだろう?っていうくらい、海の中で、ゆっくりと動く。そっか、水を濁らさないように動いているんだなぁ、なるほどね。

「本田さーーん!魚!フグもいる!」
透明度の高い水は、キラキラと日差しを反射しながらも、魚が見えるらしい。

「本田さーーん!写真、写真!」
そう言いながら、魚を追っている。

不意に遠くを見たり、僕を見たり、割と忙しそう。
僕は砂浜に在るテトラポットに腰掛けて、しばし海を眺めていた。

「なーーに浸ってるんですか?」
周りには、誰も居ないので遠くからでも声が響く。

「別に〜、なーにも考えてないよ!ぼーっとしてた!」

「海、入らないんですか?魚、フグがココならよく見えますよーー!」

彼女は、ショートパンツなので膝下まで行けるけど、僕はジーパン。海の服装のチョイスを間違えたらしい。それでも、ジーパンをめくってサンダルを階段の隅に置いて、テトラポットから水をチャプチャプ蹴ってみた。

「貝殻が有った!本田さーーん、貝殻!」
大きく指で挟んだ物をアピールしている。

僕からは、光岡さんの指で挟んでいる物は見えない。僕の周りの砂浜を見ても、貝殻は皆無。
テトラポットを、見てみるとコンクリートの壁に小さなアワビのような貝が張り付いていて、指で触れると簡単に剥がれた。
中身が無い?剥がしたと同時に中身も取れちゃったのかな?

光岡さんが、ゆっくりと帰ってきた。
「そうそう!同じ貝殻ですね。裏側もキラキラ虹色になってて、キレイ!」

「テトラポットに張り付いている貝みたいだよ!」
そう言って、波打ち際に張り付いている貝を指差した。

「本当ですね。この子たちだったんだぁ、あっ、簡単に剥がれた!」
初めての笹川流れは僕なんだが、すっかり先を越されてしまった。

不意に、僕の方を見てる。
帽子のツバを両手で左右に押さえて、微笑む。

思わず、カメラのシャッターを押してしまった。

「良い画!撮れました?」

「うん!良い笑顔だよ!」
光岡さんって、こんな表情もするんだなぁ。
それはそれは、穏やかな笑顔だった。

(3)

栞(しおり)より
12時頃 村上市の有名なラーメン屋へ行きましょう!

昼ご飯のチョイス失敗。
人気店とは調べて知っていたが、これ程とは。
真夏の炎天下に、一時間待ちは辛いね。
しかも、人気メニューは熱々の味噌ラーメン。

地元の名物に、こだわり過ぎでしまった(反省)。

「人数と名前を書いたら、しばらく駐車場で待っていても良いらしいですよ」
お店の人から渡された番号札と団扇を携えて、光岡さんが帰ってきた。

「ありがとう!じゃあ、駐車場は奥の方に停めたから!戻りますか?」
先に光岡さんを降ろして、駐車場を探している間に段取りが終わっていた。さすが、しっかり屋さんだね。

「お疲れ様、光岡さん!」
助手席に乗り込んだ光岡さんは、涼しい車内に入ってすぐに、ホルダーに在るスポーツドリンクを、ひと飲み。

「ふぅ〜、暑かった。暑いですね、本田さん!」

赤らんだ光岡さんのひたいには、薄っすらと汗が滲んでいた。

「ごめんね。昼ご飯、ラーメン屋チョイスで」

「あらっ大丈夫ですよ。ラーメン好きですし!」

「そう言ってもらえると、助かりますね。服装といい、海の準備、完璧だね。楽しんでもらえて、こっちまで嬉しいよ!」

「そりゃ、久々の海。久々の夏のレジャーですから」

そうなんだ。

「東京に住んでた時は、彼が……」
ちょっとだけ遠い目。

「彼が片脚、筋肉の病気で左右、筋肉のつき方が違ってたんですね。本人は気にしてたみたいで、ずっと隠して。人に生脚を見られるのが嫌だったんです。海なんか絶対に行けなかったですよ!だから、久々ですよ海!」

「そっか。じゃあ、はしゃぐ訳だね」

「やっぱり?はしゃいで、いるように見えました?」
ちょっと照れ臭そうに、帽子のツバを両手で顔に寄せた。

「彼氏さんに、とっては、やっぱり気になっていたんじゃない?本人にしか分からない問題だねぇ」

「私は気にして、なかったんですよ。誕生日プレゼント、ハーフパンツを渡したんですから」

「ははっ!光岡さんらしいね。そして、プレゼント出来る良い関係だったんだろうね。その人にしか、コンプレックス?分かんないし、気を遣われるのも嫌っていう人も居る。僕は、デリカシーが無いので、土足でズカズカ入ってることが有るらしいからなぁ」

「私は個性って思ってるんですけどね」

「個性?」

「そう!いわゆる障害じゃなくて、個性!要は言い方?受け取り方なんじゃないかな?って私は思うんです!」

障害じゃなくて個性!ナルホドね!

「皆んなが光岡さんみたいな考え方だと、世の中もうちょっと分かり合えるのかもね。僕も、その考え方、好きだなぁ」

「皆んなが、同じ考えじゃなくても良いと思うんです。ただ、言葉って力が在って、同じ内容でも多角的に見て、瞬時に選択できる人に、なりたいな!」

「いいね!光岡さん!」

「褒めたって何も出ないですよ。だいたい」

ん?

「だいたい、ソレを地で行っているのが、本田さんじゃないですか」

「何それ?」

「お客さんに対してだって、私達にだって、言葉を選んで話しているなぁって思うんですよ。ソレが優しさだったり、距離だったり感じることがあるんですけどね」

「それは、買い被り過ぎだよ!僕は思った様に生きているだけ、残念ながらね!」

「本当ですか?じゃあ、良い意味で天然なんですね、本田さんの!」

照れ隠しで言ったのか?
それとも?
距離を感じるですか。
直感なのか?
参ったね。

あれ?既視感(デジャヴ)?
障害じゃなくて個性!って、どこかで聞いたような?

別の言葉に変換?

「マッチ売りの少女の話だって、本田さんの考え方、ヒロさんの考え方。見方を変えると、それぞれなるほどねって思うじゃないですか。物事の捉え方、考え方の多様化?様々な意見、立場、どう行動するか?って私は最近になって、考えるようになったんです」

「光岡さんらしいね」

「まぁ、私は本田さんの意見が、本田さんらしいなぁって思う!くらいですかね?」

「それ!ヒロにも言われた!僕らしいって!」
ラーメン屋さんの番号札が、自分達の番号に近づいた為、車を出てお店に並ぶようにした。

「日差しが強いですね〜」
はるか彼方の入道雲に目線を当てながら、店に向かう光岡さん。

物事を多角的に見るコトを心掛けてみますか?
以前にも増して、視野を拡げるコトは無駄じゃないって思える。

「2名様でお待ちの、ホンダ様〜!お待たせしました!」

「さっ!本田さん!」

「さぁ、おススメは何かな?」

(4)

栞(しおり)より
15時頃

①瀬波温泉で温泉玉子を作りましょう
②作った温泉玉子を持って足湯に浸かり、のんびりしましょう

新潟県村上市には有名な温泉地、瀬波温泉が在る。
海沿いに在る温泉地、与謝野晶子も立ち寄った由緒ある温泉街。
源泉が高温なので、温泉玉子作りを体験できる施設も在り、近くには無料の足湯コーナーも在るので旅行客に好評のエリア。

「光岡さん!卵、売り切れだって」

ラーメン屋さんの後に、アイスが食べたくなってコンビニに立ち寄り、ついでに卵を買おうと画策していたが、まさかの売り切れ。

「やっぱり、みんな卵、買っていくんですかね?あっ、アイス食べたかったんです!ありがとうございます!」

アイスを食べながら、目的地までのコンビニ、スーパーを探していた。コンビニ、地元のスーパー、酒屋さん?とりあえず訪問出来るところは、寄ってみるかな。

「やっぱり夏は、ソーダ味の氷ですね」

光岡さんは満足そうだ。光岡さんの個人情報を集めた成果だねぇ。もてなす側としても、心地良い感じ。

「本田さんって、トラブルさえも楽しむんですね」
アイスの棒スティックを片付けて、両手を合わせてご馳走さま。

「そうかもね。予期せぬコトって楽しくない?」

「ソレも、本田さんらしいですよね。あっ、私がナビしますよ」
そう言って、地図を確認して一番近くのお店を目指してくれるみたいだ。

「じゃあ、瀬波温泉に向かいますか?」
上手く、おやつが出来るかな?
不確定要素が多い体験って、ワクワクしない?

最初のスーパー。
卵は売っていた。売っていたのだが、問題は数。
10個入りしか売っていないのだ。コンビニとか最近のスーパーでは4個、2個入りは販売しているんだけど、ここでは需要が無いらしい。

「光岡さん、お土産作って帰る?」
10個入りの卵を手に取って、いいかな?アピール。

「大丈夫ですよ。パパさん、ママさんに連絡しておきますね」

さぁ、目的地へ出発!

村上市の海岸沿いに在る、瀬波温泉街。
無料で利用が出来る足湯が5ヶ所、瀬波海岸を見ながら浸かれる場所や車椅子のまま利用出来る足湯など、観光客に喜ばれそうな施設。
その中の一つ、瀬波温泉街の中心部にある、足湯はキツネさんの石像が中央に在って分かりやすい。
そこから小高い丘を登ると瀬波温泉噴湯公園が在る。明治37年に噴出した、温泉源泉井戸が在る公園。
ここで、温泉玉子を作ることが出来るって訳。

車を近くの駐車場に停めて、まずは丘を目指す。
硫黄の匂いが立ち込めてきたので、これだね?

鉄塔が印象的な建物。
煙突からモクモクと煙が立ち込める小屋の前に、
木箱のような細長い物。この中に源泉が通っていて、蓋を開けてみると籠が沈んでいた。壁には、源泉の由来、伝説、温泉玉子の作り方が書いてある。

「本田さん!80度の時でさえ、15分掛かるんですって?もっと早いかと思ってました」

よく見ると、木箱の上に温度計が在って、現在の温度は90度だった。説明書きには、外気温等で変化します。70度以下では、茹で玉子は出来ません、の文字。

「季節によって変わるんだね」

「手作り感が有って、いいじゃないですか?」

木箱の蓋を開けると硫黄の匂いと共に、湯気が襲ってきた。籠を取り出して、生卵を並べて再び沈める。

「じゃあ、光岡さん15分くらい散歩でも、どうですか?」

「そうですね。あっ、まだ奥に丘が在るんですね。こっちに行って見ませんか?」

奥には急な石段が見えた。

彼女は好奇心に導かれて、石段を登り始める。
僕は、時計に目を配ったのち、彼女の後を追いかけた。割と急な石段は長い。
頂上の神社の鳥居をくぐって、ゴール? ではなくて、ハイキングコースのスタート地点らしく設定された看板を発見。

「とりあえず、ここまで、ですかね」
どうやら、想像した景色は皆無のようだ。周りは雑木林に囲われて、景色は見えない。急な石段を登っている途中の方が、海岸線も見えていたね。そうなると、頂上は、さぞかし絶景だろうという期待は、してしまいがち。
分からなくも無い。

「お疲れ様!光岡さん!」
用意した、ペットボトルを光岡さんへ。

「ありがとうございます!やっぱり、ハイキングの後は炭酸ですね」

「ハイキング?この急な石段は、登山レベルじゃないの?」

「本田さん!ハイキング!表現は、ハイキングの方が、コレみたいに爽やかでしょ?」
炭酸のペットボトルを、笑顔で差し出した。

確かに、炭酸ジュースは、爽やかな風と心地良さを届けてくれた。僕は、神社に在るベンチに腰掛けて、木陰で涼む。
蝉の声が、大合唱で響き渡る。
夏だねぇ。
周りを見渡していた光岡さん。
ふいに、海側の林に向かって!

「本田さんが、思うほど、私、そんなに強くないですよ〜!」

突然の叫び。

「ど、どうしたの?何が?」
僕は、思考がグルグル。何が、なんだか。
僕は、何を言った?何か言った?

言ってスッキリしたのか?
「本田さんは私の事、意志の強い人間って思っているでしょ?」
そう言って、僕の横に腰掛ける。
「まぁね。強いっていうか、目標に向かっているなぁって印象だよ」

「本田さんって女性に慣れているっていうより、分け隔て無く付き合って下さるから、懐に入られてしまうんですね」

あれ?会話のキャッチボールになってない?
これは、自分自身の問い問答?

「強い、弱いって、何に対して?漠然とした全体的な印象なら、僕は光岡さんは強いって思うよ!」

「私は、就職から逃げている処も有ると思うんですよね。遊んでいたいってのとは、また違うんですが。30歳までには結婚したいと思っていますし、まぁ相手は居ないんですけどね」

「そっか」

「就職したいって強く思う時期、就職したくないなぁって強く思う時期が、だいたい交互に襲ってくるんです。そうなると頭の中は、ぐちゃぐちゃ。それぞれ、もっともらしい理由が出てくるんですよ!コレが!もちろん、子供達の成長に関わる仕事がしたいってのは、偽りのない気持ちですけど、いざその仕事に関わったら遊ぶ暇は無くなっちゃうのかなぁって。だから、せめて東京で就職すれば全部の欲求が満たされるのかな?って単純な考え?家族は度外視なんですけど」

「僕が軽々しく、光岡さんの問い掛けに返事は出来ないけど」

「けど?」

「就職する前の、分からない不安感?っていうのは何回転職しても。初めての仕事っていうのは変わらないじゃないですか?」

「不安感?とは、ちょっとだけ違うかも」
座っていたベンチから、立ち上がる。

僕も、浅い回答だなぁと感じていた。彼女には建前は通用しない。先に希望しか感じられない様な甘い夢物語では、無い。ちゃんと、考えているからこその悩みなのだろう。

「結局さ、一般論なんだけど、結局悩みって大抵3つの理由で、解決するらしいんだよね」

「3つ?」

「一つ目は、自分が変われば解決する事。二つ目は、相手が変われば解決する事。三つ目は、しょうがない?運命だと受け入れる事」

「三つ目って、解決になりますか?」

「そうだよね、自分も思うことあるよ。だけど、不確定要素や自分じゃ、どうしようもない事で悩んでもしょうがない、受け入れようって思ったら気が楽になる事ないですか?」

「メンタルの問題ですね」

僕は光岡さんの呟きに対して、応えてない。答えるのを避けて、少しでも、光岡さんの悩みに対する軽くなるヒントを!

「本田さんが……本田さんが決めちゃっていいですよ」

一瞬、蝉たちが静かになったように感じた。

その時の光岡さんの顔を見ていない。
真面目な顔だったのか?
無邪気な顔だったのか?
僕は、見るべきだったのか?

「なーんてね」

おそらく、ほんの一瞬の沈黙だと思う。
それでも、その一瞬が長く感じた。
その一瞬に耐えかねた、光岡さんの呟き。

蝉の声が聞こえる。

「今日は、ありがとうございます!本田さん!いい気分転換に、なりました!」

「僕も、楽しかったよ!光岡さんの、いろんな表情が見れた」

蝉の声が、僕達の会話の邪魔をする。

「さぁ、玉子の所に戻ってみますか?ちょうどいい時間じゃないかな?」

「本田さんは、半熟派?固め派?」

「室内だったら、半熟だけど、アウトドアだったら固めの方が便利じゃない?」

「確かに、半熟派には難しいですかね〜」

「心配しないで、車の中に紙皿や箸、クッキングソルト、マヨネーズなどの調味料、持ってきてるから!」

「さすが!本田さん!」

石段を降りる姿が、軽くスキップな感じに見えたのは、光岡さんの気持ちが軽くなった様に見えたからか?僕のフィルターは、主観的に見えているのかな?

籠から玉子を取り出したのは、20分後。小屋の隅に、流しが在って水道が使える。流水で冷やしてから、下界の足湯まで持っていくことにした。

キツネの足湯は、多分5〜6人くらいが入れる感じかな?屋根も在るので、休憩に、ちょうどいい。
ただし、できたての温泉玉子を食すって、ちょっとした罰ゲームのよう。

小さなビニール袋と温泉玉子を光岡さんに渡したが、まだあまり食欲が無いのか?おやつセットは腰掛けに、そっと置いた。
ふっと、思い立ったように、サンダルと靴下を足湯の傍に置いて、足湯で、ちゃぷちゃぷと遊び始めた。

「気持ちいいですね、本田さん!」
二人しかいない為か、また無邪気な笑顔を僕に見せる。それはバイト中には、見せない表情で、鈴木さんとは違った無邪気。女の子って、面白いね。

光岡さんのハーフパンツ姿は、足湯でも遺憾無く発揮。

「どうしたんですか?本田さん、マジマジと見て」

「ん〜。いやぁ、綺麗な脚だなって」

「ほっ本田さん?」
ミルミルウチニ、ミミが真っ赤。足湯のせいでは、ないだろう。

「やだーー、本田さん。発想が、おじさんじゃないですかー!」

やばいっ、素な言葉が出ちゃった。

「うーんと、なんて、言えばいいのかな?正直な感想が出ちゃった」

やばいっ、フォローに、なってないし、困ったなーー。

ふぅっっ。
小さなため息ひとつ、足湯に落として、
「おそまつさまでした」

「フフッ、ハァッハァッハァっ!おそまつさま?返しが、おそまつさま?」

「笑い過ぎ!」
頰を膨らませる仕草も、バイト中とは違う表情。
こちらこそ、気分転換させて頂きました。

今日の小旅行。小さな貝殻ひとつ、と、大きな思い出を得ることが出来ました。

ぴーえす
温泉玉子は、光岡さん家のお土産。美味しく、晩御飯に登場したそうです。

栞(しおり)より
18時頃 光岡さん家に帰宅。
家に帰るまでがイベントです。

〜☆〜☆〜☆〜

筆者余談&つぶやき⑦

Hello!Orenge Sanshine
作詞 YUKI
作曲 恩田 快人

〜☆〜☆〜☆〜

この、お話を書いている最中、ずっと脳内ミュージック〝Hello!Orenge Sanshine ″
今でも、お出掛けの時には聴きたい曲です。
ワクワクな非日常。明日の為に、充電するお出掛け!光岡さんの魅力が、少しでも表現できたでしょうか?架空の女性ですが、大好きなキャラクターです。
JAMさんの曲がサブテーマなのは今回と次回の連続。ストーリーの骨格は、ほぼ同じなんですが、曲が違う様に光岡さん、鈴木さん、それぞれの個性が曲の中に見え隠れ、できるような表現が出来たかな?

この曲を聞くたびに、出掛けた思い出が蘇りますね。お話のモチーフの箇所は、何回も出掛けたい場所です!

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